佐藤・テイト予想
以前に谷山・志村予想のお話をした流れで,今回は佐藤・テイト予想(Sato–Tate conjecture)について触れておきたいと思います
この予想もRichard Taylorらによって既に証明されています
ここでは,難波完爾氏のテキストにある例題をフォローしてみます
sato-tate conjecture.wxm
デデキントのη関数(Dedekind Eta function)として%o2式を定義します
η関数を使ってq展開式を与えます(%o3)
これをq^100まで展開した結果を%o4式に示します
n : N/2
いま素数 p = 2*n+1 に対してq展開式のq^nの係数をaとすると,p = 101までのpとaの組み合わせは%t6〜30となります
ここで,2次方程式 x^2-a*x+p = 0 の解を配列Cに代入していきます(画面出力は省略)
N = 10000(p = 9973)までの解(複素根)を複素平面上にプロットしたものが%t1235です
これより解の分布が偏角(argument)θに依存していることが伺えますが,これがsin2θに比例するというのが同予想になります
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群 その2
前回に引き続いて群のお話です
構造力学に関係のありそうな具体的な演算について,群の定義を満足するかどうかをmaximaで確認してみます
group2.wxm
ベクトルの平衡移動について考えます
平面上のベクトルaの成分を%o1式で定義します(3番目の成分の"1"はダミーです)
e1方向にΔ1,e2方向にΔ2だけ平衡移動させる線形変換Pを%o2式で定義します
P.a はベクトルなので閉じています(%o3)
結合法則が成り立ちます(%o4)
単位元(単位行列 I)が存在します(%o5, 6)
逆元(P^-1)が存在します(%o7, 8)
ここで,P^-1はPの反対方向への平衡移動に相当します
ということで,ベクトルの平衡移動は群を成します
ベクトルの鏡像反転について考えます
ベクトルaの成分を%o9式で定義します
e2-e3平面に対して鏡像反転させる線形変換Mを%o10式で定義します
M.a はベクトルなので閉じています(%o11)
結合法則が成り立ちます(%o12)
単位元(単位行列 I)が存在します(%o13, 14)
逆元(M^-1)が存在します(%o15, 16)
ここで,M^-1はM自身であり,2回の操作で基に戻ることが分かります
ということで,ベクトルの鏡像反転は群を成します
ベクトルの回転変換について考えます
e3軸周りにθ[rad]だけ回転させる線形変換Rを%o17式で定義します
R.a はベクトルなので閉じています(%o18)
結合法則が成り立ちます(%o19)
単位元(単位行列 I)が存在します(%o20, 21)
逆元(R^-1)が存在します(%o22, 23)
ここで,R^-1はRの逆周り-θ[rad]の回転変換に相当します
ということで,ベクトルの回転変換は群を成します
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群 その1
今回は群(group)のお話です
集合Gの元g, h, kに対しての二項演算"・"を考えた時,以下の4つの条件を満たす場合に"群"を成すと言います
- 演算に関して集合が閉じている → g・h∈G
- 結合法則が成り立つ → g・(h・k) = (g・h)・k
- 単位元 e が存在する → g・e = e・g = g
- 逆元 g^-1 が存在する → g・g^-1 = g^-1・g = e
構造力学に関係のありそうな具体的な演算について,群の定義を満足するかどうかをmaximaで確認してみます
group1.wxm
実数a, bの加法について考えます
a + b は実数なので閉じています(%o1)
結合法則が成り立ちます(%o2)
単位元(0)が存在します(%o3)
逆元(-a)が存在します(%o4)
ということで,実数の加法は群を成します
実数a, bの乗法について考えます
a * b は実数なので閉じています(%o5)
結合法則が成り立ちます(%o6)
単位元(1)が存在します(%o7)
逆元(1/a)が存在します(%o8)
一見良さそうですが,1/a は a≠0でなければ成り立たないので0の逆元は存在しません
ということで,"0を除く"実数の乗法は群を成します
x→p*x+qの線形変換について考えます(p, qは実数,p≠0 )
a(x)〜c(x)を%o9〜11式で定義します
a(b(x))の計算結果は p = a1*b1, q = a1*b0+a0 とそれぞれ実数なので p*x+q の形となり,閉じています(%o12)
結合法則が成り立ちます(%o13)
単位元(z(x) = x)が存在します(%o14,15)
a(x)の逆元(y(x) = x/a1-a0/a1)が存在します(%o16〜18)
ということで,p*x+qの線形変換fは群を成します
ベクトルa, bの加法について考えます
a〜cのベクトル成分を%o20〜22式で定義します
a + b はベクトルなので閉じています(%o23)
結合法則が成り立ちます(%o24)
単位元(零ベクトル)が存在します(%o25,26)
逆元(-a)が存在します(%o27)
ということで,ベクトルの加法は群を成します
正則行列A, Bの乗法について考えます
A〜Cの行列成分を%o28〜30式で定義します
A.B は正則行列なので閉じています(%o31)
結合法則が成り立ちます(%o32)
単位元(単位行列 I)が存在します(%o33,34)
逆元(A^-1)が存在します(%o35)
ということで,正則行列の乗法は群を成します
追記
上の4つの条件に加えて次の条件を満たす場合,この群のことを特に"アーベル群"(可換群)と呼びます
- 交換法則が成り立つ → g・h = h・g
フェルマーの最終定理のニアミス解
以前谷山・志村予想の所で"フェルマーの最終定理"について触れましたが,今日はそのニアミス解についてのお話です
サイモンシン著・青木薫訳 数学者たちの楽園 "第3章 ホーマーの最終定理"をフォローします
アニメ「ザ・シンプソンズ」≪エバーグリーン・テラスの魔法使い≫(1998)の回でホーマーが黒板に書いた数式の一部がこちらです
3987^12 + 4365^12 = 4472^12
フェルマーの最終定理は正しいことが証明されてますので,上式は当然誤りです
ですがその誤差は非常に小さく,電卓等の有効桁数の低い処理系では正しい(ように見える)という理系ジョークです
本書の巻末にニアミス解を計算するC言語のコードが載っていたので計算してみます
コードの著者は「ザ・シンプソンズ」の脚本家 デービッド・S・コーエン氏です
当初はwxMaxima用にコードを書いたのですが,あまりにも数値計算が遅かったためにC言語に書き直したのでほとんどオリジナルと変わりません('A`)
コンパイラにはBorland C++ Compiler 5.5 (BCC32) を使いました
getch関数を使っているのでコンパイラによっては動作が異なるかもです・・・
- fltnm.exe プログラム本体
- fltnm.c ソースコード(テキストファイル)
以下にソースコードを示します
【fltnm.c】
#include <stdio.h> #include <math.h> int main(){ double x, y, z, i, az, d, upmin; upmin = pow(10, -7); for(x = 51; x <= 3999; x++){ printf("\r[%.lf]", x); for(y = x+1; y <= 4444; y++){ for(i = 7; i <= 77; i++){ z = pow(pow(x, i) + pow(y, i), (1/i)); az = floor(z + 0.5); d = fabs(z - az); if(az == y) break; if(d <= upmin){ printf("\r%.f,\t%.f,\t%.f,\t%.f,\t%8.10f\n", x, y, az, i, d); } if(z < (y + 1)) break; } } } getch(); return 1; }
d : 両辺の差の絶対値
upmin : 許容する誤差=10^-7
両辺の差の絶対値が0.0000001以下となる組合せを計算します
画面出力には,左から x, y, z, i, d を表示しています
というわけで,3987^12 + 4365^12 = 4472^12 が非常によい近似を与えていることが解ります
- 作者: サイモンシン,青木薫
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せん断流理論 その2
前回せん断流理論を使ってI型鋼断面のせん断応力分布を計算しましたが,梁断面のせん断応力分布 その2とは値が若干異なりました
これはフランジ両端から中央に向かってせん断流を仮定したことに拠ります
今回はフランジも幅の広いウェブと見なし,上端から下端に向かって一方向のせん断流を仮定して計算してみます
shear flow2.wxm
z : 図心からの深さ
B : フランジの幅
V : 断面に作用するせん断力
Q, I : 図心まわりの断面1次・2次モーメント
τs1 : 上部フランジのせん断応力
上部フランジに対してt*zの積分計算を行った結果をQとして%o3式に示します
自由端からのせん断応力分布を計算した結果をτs1として%o4式に示します
t1 : ウェブの板厚
τs2 : ウェブのせん断応力
上部フランジの下端におけるせん断流を q1 として%o7式に示します
ウェブに対して積分計算を行った結果を%o8式に示します
ウェブの上端にq1が流れこむことに留意してせん断応力分布を計算した結果をτs2として%o9式に示します
τs3 : 下部フランジのせん断応力
ウェブの下端におけるせん断流を q2 として%o12式に示します
下部フランジに対してt*zの積分計算を行った結果をQとして%o13式に示します
下部フランジの上端にq2が流れこむことに留意してせん断応力分布を計算した結果をτs3として%o14式に示します
せん断応力τs2が最大となる位置を求めます(%o15)
τの最大値τmaxを求めます(%o16)
Vをウェブ断面積Awで除したものを平均せん断応力τmeanとして%o17式に示します
τmax/τmeanを%o18式に示します
これより断面の形状寸法(D, B, t1, t2, I)に依存することが解ります
梁断面のせん断応力分布 その2と同じ形状寸法を代入します(画面出力は省略)
τとτmeanを%t27にプロットします
(青線がτ,赤線がτmeanを表します)
τmax,τmean及びcの数値を%o28〜30式にそれぞれ示します
ということで,梁断面のせん断応力分布 その2と同一の分布となることが解ります
せん断流理論 その1
以前梁断面のせん断応力分布 その2でI型鋼断面のせん断応力分布を計算しましたが,軸応力の増分に対する釣合い条件を解くという面倒なものでした
今回は"せん断流(shear flow)"を用いた,より簡便な方法でこれを解いてみたいと思います
流体力学で扱われる"せん断流"とは異なりますのでご注意ください('A`)
- 薄肉梁断面を水路に見立て,その合流・分岐でせん断流れ(q = τ*t)が保存されます
- 開断面の端部は自由端とし,せん断応力は0とします
shear flow1.wxm
z : 図心からの深さ
t2 : フランジの板厚
V : 断面に作用するせん断力
Q, I : 図心まわりの断面1次・2次モーメント
H : ウェブ経路の長さ( = D - t2 )
τs1 : 上部フランジ片側のせん断応力
上部フランジの片側に対してt*zの積分計算を行った結果をQとして%o3式に示します
自由端からのせん断応力分布を計算した結果をτs1として%o4式に示します
τs2 : 上部フランジ片側のせん断応力
同様にして,上部フランジのもう半分に対して積分計算を行った結果を%o5式に示します
自由端からのせん断応力分布を計算した結果をτs2として%o6式に示します
t1 : ウェブの板厚
τs3 : ウェブのせん断応力
フランジの中央におけるせん断流をそれぞれ q1,q2 として%o9, 10式に示します
ウェブに対して積分計算を行った結果を%o11式に示します
ウェブの上端にq1+q2が流れこむことに留意してせん断応力分布を計算した結果をτs3として%o12式に示します
せん断応力τs3が最大となる位置を求めます(%o13)
τの最大値τmaxを求めます(%o14)
Vをウェブ断面積Awで除したものを平均せん断応力τmeanとして%o15式に示します
τmax/τmeanを%o16式に示します
これより断面の形状寸法(D, B, H, t1, t2, I)に依存することが解ります
梁断面のせん断応力分布 その2と同じ形状寸法を代入します(画面出力は省略)
フランジのせん断応力τs1およびτs2を合わせて%t25にプロットします
ウェブのせん断応力τs3とτmeanを%t27にプロットします
(青線がτs3,赤線がτmeanを表します)
谷山・志村予想
今回も構造力学とはあまり関係ありませんが,谷山・志村予想(Taniyama–Shimura conjecture)のお話です
この予想はAndrew WilesとRichard Taylorによって証明され,モジュラー性定理(modularity theorem)と呼ばれます
因みにこの予想が証明されたことにより“フェルマーの最終定理”も証明されました
ここではNHKの数学ミステリー白熱教室 第3回「フェルマーの最終定理への道」で紹介された同予想の例題をフォローしてみます
Taniyama-Shimura conjecture.wxm
pを法とする方程式 f = 0 の整数解を返す関数Ceq(f,p)を%o1で定義します(画面出力は省略)
fに具体的な楕円関数を代入します(%o2)
試しに素数の5を法とする方程式 f = 0 を満足する解を求めると[x, y]の4つの組合せを返します(%o3)
ここでデデキントのη関数(Dedekind Eta function)として%o4式を定義します
η関数を使って上の楕円関数に対応するq展開式を与えます(%o5)
これをq^541まで展開した式を%o6式に示します
p : 法とする素数
N : pを法とする方程式 f = 0 の整数解の個数
b : q展開式のq^pの係数
この方程式の整数解を求める数論の問題と,他方のq展開式にはなんの関りもないように思えますが
1番目の素数2から始めて100番目の素数541までの,p と N と p-N および p-N = b の正誤を調べた結果(%t9〜108)
p-N = b が常に成り立っていることが判ります
- 作者: サイモンシン,Simon Singh,青木薫
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